顧客接点としてのWEBサービスとスマホアプリ
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デジタル時代において、WEBサービスとスマホアプリは企業と顧客を結ぶ主要接点として確固たる地位を占めています。
また、相互補完的な役割を担いながら顧客体験の中核を形成していると考えます。
本コラムでは、この二つのチャネルを戦略的に活用するためのデジタル戦略と今後の展望に焦点を当てます。
WEBサービスとスマホアプリの現在地
WEBサービスは情報の網羅性、複雑な機能実装、SEOによる新規顧客獲得において強みを発揮します。
一方でスマホアプリは、日常的な接触頻度の高さ、プッシュ通知などのエンゲージメント機能、デバイス特性を活かしたパーソナライズ体験の提供に優れています。
現在の両者の関係性は、単純な主従関係ではなく、ユーザーコンテキストに応じた役割分担による相互連携へと変化しています。
また、顧客の期待も、状況に応じた最適なチャネルで一貫した体験が得られることにあるでしょう。
デジタル戦略
- チャネル横断的な顧客体験の構築
効果的な戦略は、WEBとアプリを別々のチャネルではなく、統合された顧客体験の一部として構築することです。シームレスな体験連携:
顧客がチャネルを移動してもコンテキストが維持される仕組みは、顧客側にチャネルを意識させることがありません。
例えば、ショッピングカート・検索履歴などを同期し、通勤帰りにスマホで検討した商品を、自宅のPCで購入手続きをするような体験が可能です。統一されたデザイン言語:
視覚的一貫性(色彩、アイコン、フォントなど)と機能的一貫性(操作方法、用語、情報構造)を持つことで、チャネル間の移動における認知的負荷を最小化します。
- チャネルの特性に基づく機能構築
チャネルの特性と顧客の利用コンテキストを理解し、最適な機能を実現します。WEBサービスの強み:
情報の深さと広さを活かした詳細コンテンツ、大画面と入力デバイスを活かした複雑な操作が必要な機能、大量データの可視化などはWEBに配置します。
例えば、あるMAサービスでは詳細なデータ分析や高度なカスタマイズ機能をWEBプラットフォームに集中させています。アプリの強み:
即時性が求められる通知、位置情報と連動したサービス、頻繁に利用される基本機能などはアプリに実装します。
GPSを利用するロケーションベースサービスでは、入店と同時にプッシュ通知でクーポンを配布するようなコア体験をアプリで提供しています。相互誘導の最適化:
各チャネルの得意機能を実装した上で、サービス内を横断する際に、別チャネルへの自然な誘導を設計します。
例えば音楽配信サービスでは、「コンテンツ発見とプレイリスト作成はWEBの大画面環境、日常的な音楽再生はアプリ」と明確な役割分担を行い、相互のチャネルを自然に利用できる仕組みを提供しています。 - データ統合によるパーソナライズ戦略
チャネルを横断したデータ統合は、顧客理解の深化と顧客体験のパーソナライズに不可欠です。統合顧客プロファイルの構築:
WEBとアプリからの行動データを統合し、チャネルに依存しない包括的な顧客理解を実現します。
これにより、チャネルを問わず一貫したパーソナライズが可能になります。
映像配信サービスでは視聴デバイスを問わずコンテンツ視聴履歴を統合し、高精度のレコメンデーションを実現している例があります。プレディクティブな(予測的な)次のアクション提案:
顧客の過去の行動パターンから次のアクションを予測し、最適なチャネルでの行動を提案します。
企業向けに提供されるクラウドストレージサービスでは、大容量ファイルの操作をデスクトップに、共有操作をモバイルにというように、コンテキストに応じた最適チャネル提案を行っています。
展望:デジタル顧客接点の進化
- ハイブリッド体験設計の標準化
今後、PWA(Progressive Web Apps)やApp Clips(アプリの一部をダウンロードせずに利用できるミニアプリ)などの技術を活用したハイブリッド体験が主流になります。
これらの技術は、WEBとアプリの境界を曖昧にし、インストールの障壁を低減しながら、両者の利点を組み合わせます。
例えば、QRコードをスキャンするだけで一時的なアプリ体験が開始され、必要に応じて完全版のインストールを提案するアプローチが普及するでしょう。この変化により、企業はカスタマージャーニーの初期段階での「顧客の手間」を大幅に減らし、これまでよりも細やかなエンゲージメント戦略を構築できるようになります。
特にリテール、サービス業、イベント分野で急速な普及が予想されます。 - AIを活用した実用的なパーソナライゼーション
AIが顧客のコンテキストをリアルタイムで分析し、最適なチャネルと情報を自動的に提案することが加速するでしょう。
このようなインテリジェントなチャネル最適化により、顧客は自分でチャネルを選択する必要がなくなり、状況に最適化された体験が自動的に提供されるようになると考えられます。コンテキスト認識型の体験最適化:
時間帯、位置情報、過去の行動パターン、デバイスの種類などの要素を組み合わせ、最適なコンテンツとインターフェースを提供します。
例えば、通勤時間帯にはモバイル向けの簡潔なコンテンツ、勤務時間中はより詳細なWEB体験を優先するなど、リアルタイムの状況に応じた体験の自動調整が実現します。プレディクティブ・ナビゲーション:
ユーザーの次の行動を予測し、ショートカットや推奨アクションを提示する機能が一般的になります。例えば、金融アプリで月末に給与が入金されると、「定期的な貯金を設定しますか?」といった提案がタイムリーに表示されるなど、状況に応じたガイダンスが強化されます。
まとめ
WEBサービスとスマホアプリは、単なる技術的な接点やインターフェースではなく、顧客体験を形作る戦略的資産となっていくと考えます。
また、両者の関係性は「どちらが重要か」という二項対立から、「どのように統合し、相互に強化するか」という協調モデルへと進化しています。
今後は、既存技術の洗練と実用化が進み、WEBとアプリの境界が曖昧になりながら、より統合された顧客体験が実現するでしょう。
このトレンドに対応するには、個別チャネルの最適化よりも、顧客を中心に据えた統合的な体験設計が不可欠です。
成功企業は、チャネルの垣根を超えて顧客体験全体を設計し、各接点の強みを最大化する統合的なアプローチを採用しています。
このような顧客中心のデジタル戦略こそが、変化し続けるテクノロジー環境において持続的な競争優位をもたらします。